IoTに潜むリスクと5つの課題
さて、夢の技術IoTにもリスクや課題は存在します。ここではその中でも特に重要な「セキュリティ」「個人情報」「人材」「電力」「オープン化」の5つについて見ていきたいと思います。
課題1)セキュリティ問題
IoTの負の側面として、セキュリティリスクの増大が危惧されています。
IoT革命により私達の身の回りの中でインターネットに繋がるデバイスの数が増えるに連れて、同時に外部からの侵入ルートも増加します。
これは不正アクセスの頻度を高めるだけでなく、その発見に至るまでのタイムラグの増加を意味します。
やがてサイバー攻撃は人命をも脅かす
しかも、現状そこで脅かされる被害は主に個人情報に限定されますが、自動運転車や医療機器がネットワークに繋がった未来では、人体に直接危害を加えるといった可能性も現実味を帯びてきました。
サイバーセキュリティ戦略
こうした事態を鑑み、2015年9月にはサイバーセキュリティ戦略が閣議決定されました。
本戦略は2020年の東京オリンピックを含む2020年代初頭までの将来を見据えたサイバー空間における基本原則になるとされています。
戦略の目的には、『安全なIoTシステムの実現』『安心できるマイナンバー制度』『中小企業を後押しするためのクラウドサービスの普及促進』などが挙げられています。
課題2)個人情報の扱い
さらに、IoTデバイスの増加によって、例えば顔画像や指紋・虹彩・DNAといった身体情報、または病歴・通院歴・服用している薬といった健康情報など、それまでの個人情報の概念では想定しなかったようなものまでがサイバー空間に蓄積されていくことになります。
10年ぶりに改正された個人情報保護法
2015年に改正された個人情報保護法では、こうした身体的特徴を「個人識別符号」として明確に定義しましたが、「何をもって個人を特定しうるか?」という個人情報の範囲は今後も広がっていくことが予想されます。
保護するだけが個人情報ではない
さらに、スマートフォンや自家用車から得られる位置情報などは特に災害時においては安否確認や迅速な救助に繋がる面があり、やみくもに情報保護を訴えるのが得策でないケースもあります。
こうした面から個人情報を提供するか否かという問題は、利便性とプライバシーを天秤にかけるという問題とイコールだと言えます。
課題3)人材不足
IoTがIT産業の潮流となることは間違いない一方で、深刻な人材不足を招くことも懸念されています。
特に今までITとの関わりがあまり深くなかった業種においては、ITスキルはもちろんの事、専門用語を分かりやすく噛み砕いてくれるようなコミュニケーション能力を併せ持った人材が求められています。
複数の領域にまたがるスキル
また、既存のモノにICTを活用し、今までになかった新しいアイデアが出せるといった企画力、さらに市場のニーズを的確に読みビジネス創出に繋げるためのマーケティング能力なども必要です。
技術面では、ハードウェア・ソフトウェアに加えて電子機器を制御するために予め搭載されている「組み込みシステム」に精通している事も重要視されています。
プログラミング教育の必修化
こうした課題に取り組むべく、アベノミクスの一環として、2020年からプログラミング教育の必修化が決まりました。
日本再興戦略の中で決定されたこの必修化は、昨今の少子化時代を乗り切るための最大のカギは「人工知能」「ビッグデータ」そして「IoT」にあると解き、これら技術に代表される「第四次産業革命」で日本が主導的地位を確立するためには、早期からのプログラミング教育が不可欠だと締めくくっています。
課題4)電力供給
増え続けるIoTデバイスに対して安定的に電力を供給することは可能なのでしょうか?
ほとんどのIoT機器はワイヤレスを前提に設計されます。しかし、電力供給のための配線が困難な場所があったり、バッテリー交換に人的コストがかかるなど、電力供給がIoT普及にとっての課題の一つとなっています。
ワイヤレス給電
そこで、こうした問題を解決すべく非接触型電力伝送という技術の実用化が推し進められています。
ワイヤレス給電とも呼ばれるこの技術は、すでにQi(チー)というスマホ向けの「おくだけ充電技術」として実用化されていますが、伝送距離が短く損失が大きいというデメリットもあり今後の改良が急がれます。
エナジーハーベスティング
また、環境中にあるエネルギーを電力に変換するというエナジーハーベスティングにも期待が寄せられています。
これは光や熱・電波・振動といった微細なエネルギーをハーベスト(収穫)するという意味で、電卓や腕時計などに利用されています。
ただし、こちらも発電環境の不安定さや採算性の問題などがあり普及には今しばらく時間がかかりそうです。
課題5)ガラパゴス化への懸念
IoTの発展・普及を考えた時、「どこまでオープンに開放できるか?」という問題が浮上します。
ビッグデータとして蓄積された情報やエンジニアの開発環境を向上させるためのAPIなどをオープン化、つまり「誰でも自由に使える状態」にすることで、革新的なサービスやアイデアが生まれる可能性が増すわけです。
オープン化を阻むゼロリスク信仰
しかし、特に日本の企業は自社の製品・サービス内の連携を重視するあまり、囲い込みとも取れる閉鎖的な姿勢を示す傾向が強いのも事実です。
また、日本社会にはゼロリスク信仰や100%の保証を求める国民性が根強く残っており、こうした障壁に阻まれればケータイ市場で起こった様なガラパゴス化が再び起こるのではと危惧する意見もあります。